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後編 高齢者の事故に思う相場の「退き際」 ~オトナの運用を追究する~

今、高齢ドライバーの交通事故が、社会問題のひとつです。
 
交通事故の課題を考え、高齢化社会における「事故を起こさないオトナの資産運用」という、私たち個人投資家の大切なテーマにつなげてみました。

 

 

1.前提は高齢化社会

 
日本の少子高齢化は深刻な問題です。
 
多くの要因を挙げることができ、観点もさまざまですが、「若者が将来について不安」とまとめることもできそうです。
 
なにかにつけて「コスパ」(コストパフォーマンス)という観点で“計算”するのは、情報化社会の副産物でしょうが、結婚、出産、子育てといった活動にブレーキをかけるのは、人生に対するワクワク感が足りないからではないかと思うのです。
 
少なくとも私の世代まで、多くの若い男は、「彼女がほしい」「そのためには車だ」「バイトして車を買おう」なんて、現代の若者が「コスパがわるい」と否定する行動をとり、なんの疑いもなく突進していました。
 
ある意味、本能に忠実で正常なことですが、それを守る構造もありました。
オトナたちが未来の不安を語ることはなく、昔の大家族は、それこそコスパもよく、若い夫婦の子育てを支援する最高の仕組みだったのかもしれません。
 
しかし、時代は変化しました。
予見が難しかった部分もあるでしょうが、人口問題は半世紀近く前から問題視されていたのに、対策が遅れに遅れてしまったと感じます。
 
そんな状況ではありますが、不平を口にしたり嘆いたりする前に、「自分の環境」を考えてみましょう。

 

2.高齢者ゆえの事故

 
前篇では、ニュースを見て感じるほどに高齢者の事故が増えているとは思えない、といった趣旨のコメントをしました。でも、現在の車には、高齢者が事故を起こしやすい特性もあるようです。
 
前篇でも、ひとつの要因を挙げました。
「便利かつ手軽になりすぎて、使う側の人間がつい手を抜いている可能性」です。
 
しかし、別の問題を挙げる専門家がいます。
EV車(電気自動車)やハイブリッド車のパワーです。
 
どちらも、電気モーターで駆動するので、エンジンに比べて低回転でのトルクが高く、車はスムーズかつ快適に動き出すのですが、踏み間違いをしたと気づいたときにはスピードが出ていて対処が遅れる、一瞬パニックになって体が動かなくなる……そんなケースもあるのだということです。なるほど!
 
高齢者の事故が注目されて以降、操作ミスをゼロに近づける研究が一層盛んになっているようです。技術革新に期待しましょう。
 
さて、金融取引にも、「勢いでやってしまうミス」「止められない状況」があります。
とても多いのが、内容を理解せずに金融商品を買ってしまう事例です。
 
高齢者の息子や娘が「あのお金、どうしたの?」と質問すると、「証券会社の人がいいって言うから、なんとかって国のなんとかを買ったんだよ」と実に頼りない。よくよく聞くと、新興国の通貨をたっぷりと買っていて、説明もあったけど、早口でたくさんのことを言われた記憶しかない──こんな話は枚挙にいとまがありません。
 
新興国の通貨が絶対にダメ、なんて言いません。
でも、利回りが高いかわりにリスクもあるのが当たり前。強くすすめられたから「じゃあそれを」なんて、居酒屋でつまみを注文するように返事してはいけませんし、運用する総額に対する金額、つまりバランスについても考える必要があります。

 

3.ひと呼吸が明暗を分ける

 
新聞などで「金融リテラシー」という言葉が使われますが、いまひとつピンとこない、届かないという人も多いのではないでしょうか。金融リテラシーという単語については、「最低限身につけておくべき、金融・経済の知識と判断力」なんて説明もありますが、この表現には「難しいことを勉強しなきゃいけないのか」と強い義務感を生む脅迫的なものがあります。
 
でも、臆する必要など全くありません。
人生の先輩として、堂々と構え、金融の専門家とも落ち着いて対話しましょう!
 
「よくわからんぞ。わかるように説明してくれ」
「販売手数料が高いから、すすめるんだよね。それはいいよ、商売だから。で、こちらのメリットとデメリットは?」
 
投信、債券、保険・・・金融は、ちょっとしたアイデアが複雑な仕組みに発展する世界です。だから、内部にいる専門家だって、分野が異なるだけで「知らない」「わからない」状態に陥り、「それなに?」と質問するのです。
 
「難しくてわからないけど、すごくいいって言ってる……」
こんな状態で話を進めず、「ちょっと待って」と言いましょう。
 
運転だって同じです。
周囲のドライバーがちょっとイラッとするかもしれないと感じつつも、「まあ、慌てるなよ」とつぶやきながら、十分に状況を確認して次の動作に移る気持ちがあれば、操作ミスをグッと減らすことができそうです。
 
一方の金融取引は、運転のように一瞬ではなく、じっくりと考える余裕があります。商品知識が足りなくても、それをカバーして答えを出すための経験値があるのですから、“まずはひと呼吸”がキーワードです。
 
強引な勧誘のみならず、あからさまな詐欺行為に対しても、「ひと呼吸」が有効です。

 

4.大きなエンジンで静かに走る

 
現代の自動車は、パワーがある、低速トルクがある、操作がラク──事故につながる要因でもあるわけですが、使う人の姿勢によってプラス要因として生かせます。
 
らくらく時速200キロ出せる車で、調子に乗ってガンガンとアクセルを踏んだらキケンです。でも、同じ時速100キロで走るのに、馬力の小さい軽自動車よりも、でかい車体にでかいエンジンを積んだ車のほうが、いろいろな面で安全に決まっています。
 
下品に飛ばす車がいても気にせず、事故を誘発しないよう、事故に巻き込まれないよう注意しながら、でっかい車で優雅に、静かに走るのがオトナです。
 
資産運用の正しい姿勢は、これと全く同じです。
 
若い世代には、FX取引を利用して「3万円を短期間で100万円にする」なんてことを狙っている者も多いのですが、“100万円を達成するかゼロにするか”の単なるバクチです。仮に100万円まで増やすことができたら、「100万円を3千万円にする」なんてことをもくろむに決まっています。
 
アブない行動はエンドレスで、どこかで必ず破綻します。
 
あるいは、「きちんと株式投資をしよう」と決意した場合でも、「現物の売買で少し慣れたら、信用取引も駆使してレバレッジをかけ(※)、効率よく利益を狙うべきだ」なんて、どこで吹き込まれたのか、前述のFX取引の例ほどではないにしても、いつかドボンするポイント、大失敗して運用資金が大きく目減りするときが訪れます。
 
 
※レバレッジ
各種の取引制度を利用すれば、実際の資金以上にポジションを取ることができますが、わずかなブレが大損につながり得るので、バクチ感覚で利用してはいけません。
 
 
人生経験があれば、「3万円を100万円」なんて発想にムリがあることは理解できます。
 
大きなエンジンをゆっくりと回す──例えば、1億円あっても2千万円しか動かさずにいれば、失敗して半分を飛ばしても損失は1千万円、総額の10%にとどまります。
 
たとえタネ銭が500万円でも、同じように抑えて動かすのが、資産運用の基本です。「増やす」よりも「減らさない」という感覚が、軸になっていなければなりません。

 

5.定年デビューの悲劇

 
「株式投資の経験はゼロ。でも、定年退職したら、退職金で本格的に株の売買を行う。そのために今、勉強しています」
 
こういう人がいますが、きわめてキケンです!
 
十分な人生経験があれば、株式市場の特殊な変化、一般社会にはない特別な事象を受け止めることは可能ですが、定年になった時点で「いざ!」と意気込む部分は否定できず、ボタンの掛け違えから悪循環に陥るケースが非常に多いのです。
 
もっと前から、少額資金、小ロットの売買を行い、定年後にスタートする資産運用、減らしてしまったら取り戻せない勝負をどう進めるか、しっかりと見極めなければいけません。
 
そもそも、「カネを増やすなら株式投資だ!」なんて力を入れている時点でダメ。
オトナの視点ではありません。
 
「資産は全額、金利がわずかな普通預金に入れておく」というのも、資産運用の立派な選択肢です。資産運用とは、「カネをどこに置いておくか」を考えることです。
 
ちなみに、多くの投資関連情報は「オススメ銘柄」に焦点を当てています。
そんな子どもだましの情報ではなく、「やり方」「取り組み方」「考え方」を学べるものを、オトナの眼力で見つけて勉強することが重要です。

 

6.加齢で記憶力低下はウソ

 
年をとると物忘れが多くなる──科学的には、そんなことはないそうです。
ただ、50歳を過ぎれば、「今から頑張っても人生が激変することはない」と悟っているとか、前頭葉の老化などによって、意欲や気力と密接な関係のあるホルモン「テストステロン」が減少するとかで、若いときのようにしっかり復習しないから忘れる、といったことがあるようです。
 
この問題の解決には、意欲の維持や効果的な動機づけなど、自己啓発的なテクニックが有効なのでしょうが、それはそれとして、「能力は落ちていない」うえに「悟っている」ことを武器に、オトナの資産運用を考えればいいのです。
 
NHKの番組「チコちゃんに叱られる」で取り上げていましたが、一定の年齢になって「あの人の名前なんだっけ?」が増えるのは、記憶力の低下といった能力の減退ではないそうです。
 
人間は、他人の顔を認識する能力が非常に優れていて、顔を覚えるキャパ(記憶容量)は無限だし、コンマ数秒で顔を認識したり記憶したりできるとのこと。しかし、名前を覚えるのは脳の別の部分で、キャパは意外と小さい……一定の経験を重ねて多くの人の顔と名前をインプットした結果、顔は思い出せるのに「名前なんだっけ?」がどんどん増える、こういうカラクリだとか。
 
なるほど、不安がひとつ減りましたね。

 

7.オトナの“ゆとり”

 
年をとっても記憶力が落ちることはなく、経験を積んだことで判断能力は高まります。
半面、そんな変化を「心のヨゴレ」なんてネガティブに表現することもあります。
 
ネット上でちょっと話題になった、小学校のテスト問題を紹介します。
順番がバラバラになったひらがなを並べ替えて、言葉を完成させるというものです。
 
い・か・す → すいか
の・ね・た・き・か → かきのたね
 
この要領で言葉を見つければいいのですが、話題になったのは次の問題。
 
ち・お・ん・ま・こ・さ・ら → ???
 
多くの人の反応は、「読めねぇ」「下品な言葉が浮かぶだけで読めません」「心が汚れているので並べ替えることができない。落ち着かない」等々、かなりトホホなものばかり(笑)。
 
正解は、「おこさまらんち」(お子様ランチ)です。
 
中には、正解がわかったあとで、「この問題を作った先生、狙ってんだろ!」などとコメントする人もいました。いやはや、なんとも・・・
 
ひとつのネタですが、真剣に掘り下げるとおもしろいことが見えてくると思うのです。
 
オトナだからボキャブラリーが豊富だし、漢字やカタカナを利用して読みやすい表記をする知恵もあります。だから読みにくいだけ。さらには、「下品な言葉が見える」とか「心が汚れている」などと自己卑下するのも、オトナの余裕です。
 
金融取引でも、これくらいの余裕をもつべきです。
いや、大切なカネにかかわる金融取引こそ、こういった態度でゆっくりと応じるべきです。

 

◎まとめ(結論)

 
タイトルに掲げたのは、相場の「退き際」です。
 
車の運転については状況によって引退の決意を求められるのかもしれませんが、高齢を理由に金融取引を中止する必要はないと考えます。
 
金融取引の中で非常に積極的な「相場」という行為についても、基本的には、退き際を考えることはないでしょう。
 
高齢者ほど、オトナの力を発揮し、高い視点で状況を見極めながらも、行動を狭い範囲にとどめておくことができます。自らの状態を冷静に観察し、運用額を減らしたり売買頻度を落としたり、そんな調整も可能です。
 
株好き、相場好きの投資家のなかには、「適度に年をとって半ボケくらいがちょうどいい」なんて冗談を言う人もいますが、「必要なときにはサッと行動できる」という自信と、「そもそも、やりすぎないから安全」という自負があって言っていることでしょう。
 
私の父である林輝太郎は、1926年(大正15年)生まれで、終戦後から相場の世界に身を置いていました。若いころはムチャをしてスッテンテンになった経験もありますが、その後は、意図的に休み(ポジションがゼロの状態)をつくりながら、自分の得意パターンで出動することを大切にして、晩年まで相場を張っていました。
 
2012年2月28日、「なんだか調子がわるい」と検査入院した当日の夜に他界しましたが、直前まで月足で多数の銘柄のトレンドをチェックし、毎日の終値を場帳につけながら「まだダメか」とつぶやいていました。
 
ちょうど、誰も経験したことがないほど値が動かず、マーケットに全く人気(ひとけ)を感じられないほどの状況だったこともあり、資金稼働率(現物買いポジションに充当していた率)は2~3割程度だったと記憶しています。
 
年を重ね、亡くなる間際は体調の悪化で会話を億劫がりましたが、相場を見るときの目と、独り言のようなつぶやきは最後まで同じでした。
 
金融取引、相場、トレード……「直感と度胸で勝負」とか「ギリギリの判断と駆け引きでピンチを乗りきる」なんてイメージは、映画やドラマで使われるデフォルメ(変形・歪曲した表現)です。
 
多くの株トレーダーたちが、ポジションを取りすぎてしまう状況を「ポジポジ病」と呼んで自ら問題視していますが、その逆の発想こそが正しい姿勢、オトナの運用です。
 
すなわち、「すべて現金の状態がニュートラル」と定義するのです。
 
ポジションを取る=とても積極的な状況、疲れる、もとに戻るのがゴール
すべて現金=外出から戻ってリラックスする状況、次の戦略を考える時間
 
行動に適切なメリハリをつけ、困難だらけの相場を楽しむ余裕をつくってください。
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