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後編 早わかり! 低位株投資の具体的取り組み方

「株の初心者は、名の通った優良企業の株を買いましょう」

目にすることのある説明ですが、初心者が「優良企業だ」と思う銘柄は、誰もが納得する説明が可能な企業なので、大多数のマーケット参加者にも優良と認められています。だから、潜在的な期待を上回る成長が継続しないかぎり、株価の大きな上昇は期待できません。

ということは、マーケット全体の下落(ショック安)や、業績の伸びが期待ほどでなかったときの値下がりリスクが気になります。

値上がりの可能性が高くて安全性も期待できるのは、たとえ地味で知名度が低くても、とにかく“価格の安い個別銘柄”です。

とはいえ、価格の安い銘柄には、業績の長期低迷、事業の衰退、サイアクの場合は倒産といった懸念も漂います。

林投資研究所が主宰する「FAIクラブ」は1984年の発足いらい、長きにわたって低位成長株の選定と売買実践をつづけてきました。その概略と、投資手法の魅力を紹介します。

「前編 低位株投資の魅力」を確認

 


 

後編 早わかり! 低位株投資の具体的取り組み方

6.楽しく継続できる分散投資

個人投資家として利益を上げるには、プロのまねをするべきです。
実際には、プロに比べて不利な面も多いので、「やるところは、プロ以上のクオリティにする」ことを求めるべきです。

すみません、いきなりハードルを上げてしまいましたが、マーケットの規模は大きく銘柄も多いので、個人投資家が十分に満足な利益を得ることができます。ただし、条件があります。

前述した「やるところは、プロ以上のクオリティにする」ために、「行動を限定する」のです。

まずは売買に投じる金額。
成功を前提にムリな金額で売買すると、自分で自分の首を絞めます。毎日携わるプロでもないのに「ここで利益を取らないとヤバい……」なんて状況をつくったら、自滅は必然です。

次に、行動のタイミングを限定することです。
株式市場では毎日、いろいろな銘柄が激しく動いているので、「どんな方法でも利益が取れそう」に感じるのですが、不特定多数の参加者がしのぎを削っているので、自分だけに有利な部分なんてありません。「取れそう」と感じるのは、誰もが陥る錯覚です。

あとは、銘柄を限定することです。
「なんでも屋」ではなく、「この銘柄とこの銘柄ならまかせておけ」くらいの専門バカを目指すことで、プロに負けないクオリティに到達することが可能です。

やはり、ハードルが高いでしょうか?
でも、誰もが想像する分散投資を行うときに、ほかの投資家と差をつけるのは、こういった地味な注意点です。適切な金額で「タイミングと銘柄を一定範囲に限定する」イメージをもてば、個人投資家としての楽しみを維持しながら十分に勝負できる売買スタイルが確立できるのです。

7.自然とプロの売買に近づく

「きゅうくつだなぁ」なんて感じたかもしれませんが、前項で挙げた事柄は、事前に考えておけばいい、ラクに継続するための工夫です。

買い物でも、趣味の時間でも、「今日はこれ!」なんて感じで狙いを絞り、そこに集中することを楽しんでいると思います。同じように、株式投資も、こだわって狙い定める自分の姿を、「すばらしい」「ステキだ」と高く評価してください。

現物の分散投資は「安全性が高い」と認識されていますが、その安心感が落とし穴をつくります。うっかりゴミ集め……それほど時間がたたないうちに手の内が“ダメポジション”で埋まるケースがとても多いのです。

また、自分の狙いどころが決まっていれば、飛び交う情報もちゃんと取捨選択できます。狙いがブレたときに、うっかり「正解さがし」をして、あっという間に“情報難民”“相場難民”になってしまうのです。

ゴミ集めも難民化も、人間の自然な心理によるものです。
それを避けるのが、プロの売買です。

理屈を理解して意識するだけで、誰でもプロの売買に近づくことが可能なのです。

8.「時間」のコントロール

林投資研究所のFAI投資法は、単なる銘柄発掘の方法ではありません。

前述したような、生身の人間ゆえのミスを防ぎ、生身の人間だからこその能力を利用するべく、やり方の基本がまとめられています。

月足の観察方法も、うまく言語化されています。
最初は戸惑うかもしれませんが、月足を見ていろいろなことを考えるのが楽しくなります。

すると、チャートのタテ軸である「価格変動」とヨコ軸の「時間の経過」をバランスよく捉えるようになります。

売買についても時間の経過を意識し、「いま売ると損する」といった自分の都合や感情まかせの思考ではなく、マーケットの状況を考えた合理的な判断も可能になるのです。

これこそプロっぽい、いや、完全にプロの領域に立っているといえるでしょう。

9.低位株投資の注意点

さて、低位成長株、つまり「価格が安いところにいる」「大きな値上がりが期待できる」の2つの条件をもつ銘柄は、買いの対象として非常に魅力的です。

ただし、表裏一体の弱い部分についても理解しておかなければなりません。

株式市場では、ホットな投機資金が活発に動き、常になにかしらが物色の対象となって値を上げています。ところが、それを追うと「なんでもアリ」の無秩序な売買に陥ります。前編で「流行を先取りする」という表現を使いました。ちょっとだけ先回りするのが精一杯ですが、少なくとも、流行に振り回されてはいけないのです。

長く売買していると、「自分の出番ではない」という時期が必ず訪れます。“悪食”ではなく、好き嫌いの強い“美食家”になり、「こだわりを満たす銘柄がなかったら休む」という発想を、頭の隅に置いてください。

そうすれば、片っ端から買われて上げ余地がなくなった場面で高値圏の銘柄を買いあさる、なんて失敗はしません。

また、「安い銘柄をみんな買っておけ」なんて乱暴なことにもなりません。
安くてチャートが魅力的でも、財務状況や業績がビミョーな銘柄も、“美食家”の選定眼で見極めることができます。

前編で実例を紹介した「ファンダメンタル分析シート」を、正しい姿勢で利用すれば、銘柄選定の大きな武器になります(「4.低位株が上昇する3つのパターン」)。

10.欠かすことのできない定点観測

多くの投資関連情報は、見事なほどに「日替わり」です。
大手メディアなどは、ビジネスの都合上、最も厚い層をターゲットにします。すなわち、上手とはいえない投資家層、平均して成績がマイナスの個人投資家層に照準を合わせるのです。

そのような投資家層に「プロに近づくための考え方」を説いても、興味を示してくれません。なんだか華やかで、チョロチョロっと儲かりそうな情報(実際は害になる)だけを発信するのです。

なんだか腹立たしいことですが、競争社会の原則どおりのことですよね。
私たちは、そんなやり方を売買に利用すればいいのです。
大手メディアは、情報を販売するプロとして対象者を明確にしている──だったら、私たち売買の実践家は、「売買の対象を限定する」ことで勝ち組への道に乗ろうではありませんか。

月足を落ち着いて見て長期波動を考えたり、前項で示したファンダメンタル分析シートで時間的な変化を捉えたりするのが、相場のプロのやり方です。銘柄をとっかえひっかえせずに範囲を限定する、「定点観測」です。

情報というと「すぐに儲かる情報」を想像する向きも多いのですが、そんなものがあったら、どのマーケットも成り立ちません。情報は、自分の守備範囲に合わせて、自分自身の手でつくり出すものなのです。

ただ無責任に「低位株を買いましょう」などと言うつもりはありません。
「FAI投資法」では考え方からやり方まで整っているので、プロへの道がひらける──こんな確信があっておすすめしているのです。

11.37年間の歴史

FAIクラブの発足は、1984年です。
私はまだ学生でしたが、立ち上げ時に、手描きの月足を全銘柄そろえる手伝いをしました。それいらい37年間、毎月の例会で討論したり月足を眺めたり……。

でも、とくに苦行だと感じたことはありません。
楽しく月足を観察しているうちに、「定点観測」によって「自ら情報をつくり出す」作業が当たり前のものになりました。

現在は、FAIクラブを主宰する会長として、経験豊富なメンバーたちの助けをもらいながら、現在も銘柄選定の活動をつづけています。

まずは候補銘柄を例会の場でチェックし、「可能性がある」「大きな問題はなさそう」と判断したら、『注意銘柄』という枠に入れます。そのあとは毎月、「買い場が到来したかどうか」を確認するための定点観測です。

条件がそろって「よし、実際に買いの対象にしよう」と決まったら、『買い銘柄』の枠に移します。

ここまでの作業は、例会の議論による“合議制”です。
でも、売買のタイミングは人それぞれ。具体的な売り買いについて、合議制で結論を出すことなど不可能だからです。

FAIクラブは、こうした銘柄選定のほか、個人の売買テクニックについての討論や、株式市場の制度や状況の変化を勉強するなど、ひたすら“実践”に焦点を当てて活動しています。

その内容について、メンバーの個人情報以外は可能なかぎり、林投資研究所の定期刊行物『研究部会報』に掲載しています。

会報を読んでいる投資家は、FAIクラブで選定した銘柄を対象に売買しながら、疑問や質問を寄せてくれます。それに答えることも楽しみで、かつ勉強になります。ハッとすることもあり、それを例会の場で紹介して議論することもあります。

こんな活動を継続するなか、当然のように山あり谷ありの37年間でしたが、2021年4月現在、選定した銘柄が元気に動く状況を追いながら、今後も低位成長株への投資が期待どおりに機能する近未来を想像し、ワクワクしている毎日です。

日経平均が3万になりましたが、個別銘柄の動き、とりわけ低位株、バリュー株などは、まだまだ静かな状況で、「これから少しずつ、買い場が到来する」状況だと考えています。

「誰でも儲かる」なんてウソは言いませんが、個人投資家にとって手がけやすく、ラクに継続でき、成果が期待しやすいジャンルだと思います。これからも、低位成長株投資に関する情報を、『研究部会報』やYouTube動画などでお届けしていきます。

プロっぽい考え方、プロっぽい行動を意識して、楽しみながら勉強してもらえたら幸いです。

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