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前編 害となる情報が多すぎる

「情報化社会」という言葉が使われはじめて久しく、ここ20年はインターネットの普及によって、個人でも多くの情報にアクセスできるようになりました。

もともと相場の世界は、超情報化社会。
電話だけの時代でも、実にスピーディーに情報が伝達されていました。

現在は、上場銘柄数も多く、情報は無数に飛び交い、国境のハードルも低くなって投資先はいくらでもある──「今日買う銘柄」で悩む前に、「情報の捉え方」を考えてみることが重要です。

個々の情報が、個人投資家の株式投資にとって「役立つ」か「害となる」か……。
こんなアプローチをしてみました。

前編 害となる情報が多すぎる

 


 

1.成果を決めるのは「銘柄」か

株式投資における成功の秘訣は、よい銘柄を見つけて買うことだ!
そうでしょうか。

例えば、ある銘柄(個別株)について、「明らかに割安だ」と感じるケースは数多くあります。そして、そんな判断が「リスクを負って買う」積極的な行為の根拠です。

でも、一歩か二歩退いて考えてみると、「明らかに割安」「こんなに安いのはヘンだ」というのなら、そもそも、その水準まで売られていないはずです。

誰でも参加できる株式市場には実際、国境を越えて多数の投資家が集まっています。百戦錬磨のプロまで含めた参加者全員が、「自分だけ儲かればいい」と考えて行動しています。

だから、「ゼッタイに儲かる割安株がころがっている」なんて道理はありません。
(そんな割安になる前に買われる、すなわち「下がらない」のが市場の機能だからです)

あらゆる状況について、同じように考えることができます。「儲かる銘柄の秘密情報はない」というのが、いわば最大の秘密でしょう。

2.予測的中の確率

ファンダメンタル分析(企業の業績や財務の分析)やチャート分析で、特定の銘柄について、この先「上か下か」を予測する──こんな行動を考えてみます。

十人十色、人によってさまざまな理論や着眼点がありますが、「上か下か」なので、全体で予測的中率は50%です。同じことを繰り返して、長い期間で的中率が80%、90%に届く人なんているはずがないのです。

ちまたの銘柄情報は、投資家に夢を与えてくれます。
でも、上記の原則から、実現しない“一時的な夢”と言いきることができます。

こんな否定論には、ワクワク感のかけらもないのですが、投資家として正しい行動指針を固めるために必要な前提です。「役立つ情報/害となる情報」を考えることで、迷うことのない実践方法を見つけようという試みです。

少しの間、おつきあいください。

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3.ズバリ銘柄情報が有益なケース

銘柄情報はダメ、と述べましたが、単なる有望銘柄情報が有効、つまり「投資の元となる情報として有益」「正しい投資活動が成り立つ」状況だってあります。2つのケースを挙げます。

(1)銘柄情報の受信者がプロ
確固たる投資基準をもつプロのファンドマネージャーなら、雑多に送られてくる有望銘柄情報を数多く見ても、気分だけで選ぶことなどないでしょう。
「雑多」と書きましたが、いろいろな着眼点があり得るという意味合いです。決して、無手勝流のグズグズではありません。そもそも、プロならば、クオリティが高くて落ち着いた情報源を選ぶはずです。

(2)選定基準が一貫している
銘柄選びの観点が多岐にわたることなく、相当に絞り込まれていたら、どうでしょうか。
あるときは短期的な値動き、あるときは経済テーマに合致する材料、またあるときは新製品の可能性……こんなバラバラなものではなく、終始一貫した銘柄選定ならば、貴重かつ有益な情報といえそうです。

ただし、当然のように、「うちの基準では現在、おすすめ銘柄がありません」なんて時期も生じるでしょう。のどがかわいて水を欲するがごとく、常に「有望銘柄は?」と最新情報を求めるのが平均的な投資家の姿です。だから、こういったまじめな投資情報は、商業的に成立しにくい……結果として、存在を期待できない、というのが残念な現実です。

4.銘柄情報が多い理由

前項まで述べたように、きちんと分析すると、銘柄情報は多くの場合が誤りです。
それなのに、世の中の投資関連情報は「銘柄」ばかりです。

その理由は……すでに、前項の終わりに書いてしまいました。

情報産業は、最も厚い層をターゲットにします。
対象者が最も多い投資家層には、「ズバリこれです!」という銘柄情報が、ビジネス的に有効なのです。

 

投資家をレベル別に分けて分布図を描くと、上にいくほど細くとんがった三角形でしょう。つまり、平均値も、人数が多いのも意外と下のほうです。そして、そこに位置するのは、「ラクして儲けたい」と考える人たちだけなのです。

その層に沈んだままでは、成果が期待できません。
まずは、銘柄情報をさがして安易に採用しないよう、注意したいのです。

5.日経平均を見るな

一般向けのニュースでも、投資家向けの市況解説でも、最初に、日経平均株価の騰落と水準を説明します。

「今日、株価はどうだった?」と聞かれて、数千もある上場銘柄の動向を説明するのは難儀なので、日経平均の動きに言及するのでしょう。しかし、日経平均などの「株価指数」だけで本当の株価動向を言い表すことはできません。

下に、6銘柄の約1年間の株価チャートを示します。
日経平均のほか、日経平均の算出対象(採用銘柄)である個別株5銘柄です。

※ すべて、「中源線シグナル配信」のチャートを加工したものです。

  • 日経平均株価(指数)

  • 2502アサヒグループHD

  • 2768双日

  • 7205日野自動車

  • 9009京成

  • 9984ソフトバンクグループ

2020年3月、いわゆる“コロナショック”の安値から、多くの銘柄が上昇しています。そういう意味では、この期間の日経平均の上昇は、株式市場全体の動きを示しているといえます。しかし、こうして個別株の値動きの波を見ると、かなりバラツキがあることがわかります。

もういちど述べますが、これら5つの個別株はすべて「日経平均採用銘柄」です。
それなのに、これだけバラバラなのです。

「今日の日経平均は……」ではじまる解説は、前項と同じ論理で、「多数の儲からない投資家層」向けの情報だといえるのです。

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6.海外ニュースの重要性

投機資金は、国境を越えて活発に移動します。
また、世界経済と日本経済には密接な関係があります。

とはいえ、最近は、やたらと海外の情報が日本株の「材料」として紹介され、情報過多の傾向を強く感じます。例えばアメリカの雇用統計発表とか、以前は誰も知らなかったような指標が“重要な材料”のように報じられるのです

同じくアメリカの金利水準について、近ごろやたらと「上昇したらたいへん」と報じられるようですが、むしろ経済回復に伴う正常化なのでは?

もちろん、どんな変化がマーケットにどのような影響を与えるかわからないので、個々の結びつけを全否定することもできませんが、「投資家の不安をあおっている」「不安心理を突いて記事を読ませようとしているだけ」と感じられるフシがあります。

日本の株価について「暴落論」「警戒論」を目にすることは多いのですが、「NYダウが34,000ドルを超えている。日経平均が3万円未満は安い」といった強気論を大手メディアが紹介することはないようです。

情報が恣意的につくられていると推測できるうえに、情報量が多すぎて、不要な不安を増幅させるだけだと懸念されるのです。

7.買うならどっち?

投資家向けのネット広告で、こんなパターンのものを目にすることがあります。

2つのチャートが並んでいて、「買うならどっち?」と書いてある──クイズの答えが気になってしまいますが、予測の的中率は50%です。戦略によって見方も異なるので、「買うなら、明らかにこっち」なんて、いわゆる“正解”はありません。

「どちらにも手を出さない」とか「どちらの銘柄もカラ売り」なんて答えだってあるのが、売買の実践です。そういった選択肢が“最初から存在しない”という前提がそもそも間違っているので、この手の情報は二重にキケンですね。

「当たる予測があるなら、ぜひとも知りたい」と考えるのが、自然な心理です。
とはいえ、その心理を上手に利用しようという情報が非常に多いのです。この事実は、覚えておく必要があります。

8.自動売買で儲かるか

同じくネット広告で「えっ?」と思うものがあります。
「FX自動売買で儲かる」「副業に最適」「損切りがあるから安心」といったものです。

カンタンに儲かる方法があったら、それを知っている誰かが驚異的な利益を上げ、世界中の金融マーケットを破壊するはずです。いや、すでに破壊されている、と考えるのが正しい論理です。

安定した利益を上げるために、トレードシステムやルールの利用価値はあります。
でも、安易に飛びついて満足できる結果が出るなんて、子どもじみた空想にすぎません。

参加者全員がガチンコで競争してカネを取り合っている──この基本的な構造を踏まえ、仕事などを通じて学んだ「自分自身の常識」を、そのままストレートに当てはめて考えるべきです。

ちまたの情報を評価するとき、うっかりの錯覚に陥ってはいけません。

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